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もしも心と体が癒しを求めていたら

✍️ 海野 紀恵

あなたは何に癒されますか?

新年度がスタートして約1ヶ月。なんとなく世の中がソワソワするこの時期は、環境が変わった人はもちろん、変わらなかった人も、疲れを溜め込みがちですよね。

皆さんはどうやってその疲れを癒していますか?美味しいものを食べる、温泉に浸かる、動物と戯れるなどなど、さまざまな方法があると思います。私は温泉&マッサージが最高の癒しであり、自分へのご褒美なのですが、最近<香り>にも助けられているなぁと感じています。朝、どんなに体が重くてもお気に入りの香水をつけると気持ちがシャキっとしてスイッチが入ります。また、読経や法話をしているときも、ガチガチに緊張した心と体が、お香の香りでほぐれていくような感覚があります。もしかして、香りにはものすごいパワーがあるのではないか?

そこで、今回は「香りの世界」を深掘りしてみようと思います。

心地よい香りに誘われて

お邪魔したのは善光寺のすぐそばにある<お香の店古薫kotaki>。

お店の入り口で薫かれている、甘く神秘的な香りに誘われて店内に入ると、様々な種類のお線香や、香炉などがずらり。

代表の髙橋郁美さんは、香りの調合師<香司>です。髙橋さんに、そもそもお香とは何でできているのか、どのような歴史があるのかを伺ったのですが、いきなり衝撃的な一言が。「今生きている私たちが、天然の香木の香りを聞ける最後の世代かも知れません」と。(お香の世界で香りを感じて味わうことを聞くといいます。)

お香の原料は<香木>と<香料>。<香木>というのは、独特の香りを持つ木です。香木と呼ばれるのは、伽羅(きゃら)、沈香(じんこう)、白檀(びゃくだん)の3種類。どれもいわゆるお寺の香りなのですが、沈香は重みとスパイシーさを感じる香りで、白檀はとても華やかな印象。(個人の感想です。)

面白いのは、伽羅と沈香は同じ植物だということです。同じ木でも、産地が変わるだけで香りがずいぶん違うそうです。伽羅は沈香の最高級品でベトナム産しか存在せず、沈香はインドネシアやタイなど様々な国で採取されます。しかし!気候の変動などで、香木は今や超貴重品。今後天然ものはなくなってしまうのではと言われているそうです。古薫では天然の香料にこだわっているということなので、心して香りを聞かせていただきます。

香りがもたらす癒し時間

お香のもうひとつの原料<香料>は香木以外の植物で、木の皮や、蕾、果実など様々です。例えば、桂皮、丁子、大茴香(だいういきょう)など。「ん?どんな植物?」と頭の中に「?」が溢れましたが、シナモン、クローブ、八角と言いかえていただいたら、「あぁ!知ってる!しかも食べている!」とびっくり。お香の原料は漢方とほぼ同じなのだそうです。確かに、漢方として知られる植物って独特の香りがありますもんね!

漢方は、体の調子を整えるために昔から生活に取り入れられてきたもの。その香りを感じることで癒される、というのも納得できます。それぞれ個性的な香りを持つ香木や香料をブレンドすることで、リラックスタイムのお供になったり、気合を入れたいときの味方になってくれるのだそうです。もちろん、香りの感じ方には個人差がありますが、お香の香りで緊張がほぐれたという私の実感の理由を教えていただけたように思います。

感覚を研ぎ澄ます、自分のためだけの時間

<お香の店古薫kotaki>には、オリジナルの香り作る体験メニューや、お香の調合教室があります。せっかくなので調合教室に申し込み、<焼香>を作らせてもらうことに!法事やお葬式の時にするあのお焼香です。本堂でお勤めをするときに使えるような、私だけの香りを作ろう!と意気込んで臨みました!

髙橋さんが準備してくださったのは、仏事に相応しい香木や香料14種類。

私が作りたい香りのイメージは、色とりどりの花が咲き、美しい音楽が流れ、やさしい光が溢れる<極楽浄土>(阿弥陀仏の世界)を感じる香り。甘く、華やかでありながら、奥行きのある穏やかな香りを目指します!

ベースには、とても上品な香りの白檀をチョイス。そこへ熱を加えるとチョコレートのような甘い香りを放つ丁子(クローブ)を多めに加え、香ばしさが際立つ大茴香(八角)もプラス。髙橋さんの専門的なアドバイスをいただきながら、隠し味(隠し香り?)をちょこちょこっと入れて、オリジナル焼香が完成しました!

香木や香料は、そのまま香りを聞くのと、熱を加えて聞くのでは、香りの印象が全く変わります。調合している間は、何度も原料を炭の上にのせ香りを確かめ、調合してはまた香りを聞く、ということを繰り返します。目を閉じて、形のない香りに全神経を集中させる。香りを感じることはもちろん、嗅覚を研ぎ澄ますことが、とても心地よく感じました。

時間に追われ、自分と向き合うことを後回しにしてしまう、忙しい毎日。もしも、心と体が癒しを求めたら、香りの力を借りてみるのはいかがでしょうか?

[取材協力]
お香の店 古薫kotaki
https://www.kotaki.site/

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✍️書いた人

海野 紀恵(うんの・きえ)

浄土真宗本願寺派僧侶・布教使・フリーアナウンサー。 仏教に限らず宗教全般に興味津々。 お酒・おしゃべり・京都が大好き。 SBCラジオ「Mixxxxxx +」(月・木・金)YBSラジオ「プチ鹿島のラジオ19××」出演中。