Moshipedia
自由に空を飛べたらー。なんてことはもうこの歳になると思わない。しかし、自由に空からの風景を撮れたら、とは思う。
ドローン映像はアガる。見慣れた景色も、まったく違った角度から見せてくれる。
もしもまったくの初心者がドローン空撮を始めるとしたら、何をしたらいいのか。私は、ドローン国家資格向けの講習で教官を務める、一等無人航空機操縦士の渡辺将志さん(株式会社ライフシード)のもとを訪ねた。渡辺さんはテレビ番組やTV-CMをはじめ、数多くのドローン映像を手掛けてきたスペシャリストだ。
資格がなくても飛行はできる、けど…。
–ドローンというと、資格とか飛行申請とか、色々とややこしい印象があります。まず最初に何をすればいいんですか?
渡辺さん:実は飛ばすのに必要なのは「飛行許可・承認手続き」で、「資格」は要らないんです。(2024年5月時点)
–え!?そうなんですか?
渡辺さん:ただ、許可・承認を申請するために一番近道なのが、資格取得のための講習なんです。条件が整っていなかったり、申請に不備があったりといった、やってはいけない飛ばし方をしてしまうと航空法違反で懲役1年以下、または50万円以下の罰金ですから。
–れっきとした犯罪なんですね…。
渡辺さん:それと、国家資格は入札参加の資格になっていることもあります。発注側の立場になれば資格を持っている方を選びますし、仕事としてドローンを操縦するなら持っていたいところですね。
–しかし、資格がなくても飛ばせるということは、極端な話をすれば機体さえ買えば僕でも今日から飛ばせるってことですか…?
渡辺さん:100グラム未満のドローンならOKです。
–100グラム? ピンとこないですけど、だいぶ小さそう。
渡辺さん:小さいですよ。100グラム未満では、外で飛ばすのはほぼ無理ですね。ちょっとした風でもあおられちゃいます。ちなみに、これが199グラムのドローンです。数年前までは200グラム未満までOKだったので、このシリーズはバカ売れしました。
–199グラムでもかなり小さいですね。この半分ってことは、確かに外ではすぐ風に飛ばされちゃいそう…。では、やっぱり100グラム以上のもので考えます。
飛ばすために、飛ばした実績が必要!?
渡辺さん:100グラム以上のドローンを買う場合は「機体を登録する」必要があります。これはざっくり言ってしまえば自動車のナンバープレートと同じです。国土交通省に使用者と機体の情報を登録します。郵送でもオンラインでもできます。
–登録が済んだらどうしたらいいですか?
渡辺さん:次に国土交通省に飛行の許可をもらうための申請をするのですが、毎回毎回、飛ばすたびに申請を出すのは大変なので、空撮をする人は1年ごとに更新すればよい「包括申請」をするケースが多いです。申請なしでは飛行ができない「人口集中地区」もOKになりますし、目視外でも飛ばせるようになります。
–年に1回の申請でいいなら、そこまでハードルは高くないですね。
渡辺さん:ただ、包括申請で飛ばせる範囲は限られていて、リスクが高い場所や条件下では、個別に申請する必要があります。
–個別に申請しなければいけないのは、どんな場所ですか?
渡辺さん:例を挙げると「人口集中地区での夜間飛行」や「イベントの上空」などです。他にもさまざまなケースがあるので、詳しくは国交省のHPに記載してあります。
–夜間やイベント上空は確かにリスクが高そうですね。ちなみに人口集中地区って、どうやったらわかるんですか?
渡辺さん:国土地理院が指定していて、これもHPから確認できます。
–おお、思ってたより簡単! じゃあ、早速その申請をしちゃいます!
渡辺さん:それがそう簡単には行かなくて。10時間以上の飛行実績がある人じゃないと申請できないんです。
–申請前に、10時間飛行ってどうやって実績を積むんですか?
渡辺さん:目視で30m以内に物や人がないところなら申請なしで飛ばせるので、そういうところで実績を積みます。ただ、「物」と言ってもガードレール、電柱なども含まれるので、人間が行ける場所で条件に該当する場所となると限られています。
–そんな場所があるとしたら、スキー場とかゴルフ場くらいじゃないですか?貸してくれるとは思えないし。
渡辺さん:そうですね。ここ長野市でいえば「ラジコン広場」という練習場がありますが、そういった施設や場所がなければ体育館などで練習するのが現実的です。東京あたりだとテニスコートをネットで囲ったような練習場もありますね。ちなみに、先ほどの免許制度の講習では当然、申請なしで飛ばすための条件を整えてあるので、実技の指導を受けながら10時間以上という条件をクリアできます。ちなみに飛行時間はアプリに記録を残して証明します。
–なるほど。「資格講習が近道」というのはそういうことなんですね。
やっぱり免許講習がおすすめ
–資格講習では、実技のほかにどんなことをやるんですか?
渡辺さん:二等操縦士の講習では、10時間の実技のほかに、10時間の座学があります。これは先ほど言ったような申請の仕方や、飛行できる条件などについて学びます。
–やってはいけないことも細かく規定されてそうですね。
渡辺さん:ルールと資格の学科試験はリンクしてますし、安全のための技術は実技講習とリンクしてますから、近いうちに自動車免許のようなものに「なくては飛ばせない」というものになるかもしれませんね。
–ちなみに講習って費用はおいくらかかるんですか?
渡辺さん:まったくの初心者だと二等操縦士で363,000円です。全部で4日間になります。
–それなりに本気度の高い人じゃないとですね。
渡辺さん:機体が増えた分、事故も増えましたから、「誰でも簡単に飛ばせる」というわけにはいかなくなってきているのが実情です。
–流れに沿って必要事項をまとめるとー。
- 1:ドローンを買って国交省に機体登録
- ※登録済みの機体を借りるなら不要
- 2:10時間飛行訓練
- ※機体を目視できて、30m範囲内に人や物がない場所のみ飛行訓練可能。
- なので、資格講習がおすすめ。
- 3:国交省へ飛行申請
- ※「包括申請」だと1度で1年間、ある一定の範囲内で何度でも飛行可能。
- 「ある一定の範囲」とは人が多いところや飛行機に干渉しそうなところなどリスクの高い場所以外。
- ※資格講習なら「ある一定の範囲」含め、禁止事項などを法律に沿って学べるのでおすすめ。
渡辺さん:かなりざっくり言うとそういうことになります…!
ドローンは見たことのない景色を見せてくれる
–初心者向けのドローンはどんなものがおすすめですか?
渡辺さん:初心者向けとか、熟練の人向けという見方はあまりしないです。使い方に合わせておすすめしています。たとえば、飛行時間とか、飛ばしたい場所だとか、話を聞いて必要なさそうな機能を引き算しながら一番合ったドローンを選んでいます。
–どこのメーカーがおすすめとかありますか?
渡辺さん:基本的に弊社はシェア7割強といわれるDJI製品をおすすめしています。
–DJIはどういうところがいいんですか?
渡辺さん:使っている人が多いということは、扱い方もいろんな人から教えてもらうことができます。あとは、操作用のアプリやサービス面も充実しています。メーカーによっては、急にアプリが使えなくなったりしますので、そういう心配がないというのもおすすめする理由の一つですね。
–ざっとネットで調べると、DJIでも10万円を切るものから50万円以上するものもありますね。何が違うんですか?
渡辺さん:カメラの性能や機体の操作性、機能性などで値段が違ってきます。わかりやすく言ってしまえば機体が大きいほど安定した飛行ができます。ただ、10万円以下の小さなものでも十分、楽しめますよ!
–話が変わりますが、渡辺さんはどうしてドローンを始めたんですか?
渡辺さん:もともとスノーボードをやっていた関係で、GoProなどを使ってスノボ関連のイベント用の映像なんかを撮るようになったんです。ちょうどその頃にドローンと出会ったのと、会社でも新規事業を何となく探し始めていたタイミングが重なって。
–新規事業だったんですね。それまでは何をしていたんですか?
渡辺さん:所属する会社の本業である通信関係の仕事をしていました。今でこそ当たり前のサービスではありますが、当時はまだめずらしかったテレワークの構築や、コールセンターの構築、オリジナルWi-Fiスポットの開発などが主でした。
–だいぶ仕事内容が違いますね。ドローンの事業は伸びると思ったんですか?
渡辺さん:それもありましたけど、単純におもしろくて(笑)
–どんなところがおもしろいですか?
渡辺さん:やっぱり自分ひとりでは見られない景色、見たことのない景色を見せてくれるところですね。子どものころゲームやラジコンも好きだったんですけど、それが2Dではなく3Dの世界で味わえるわけですから、相当ワクワクしますよ。
–やりがいもありますか?
渡辺さん:いろんな現場に呼んでもらえるんですけど、毎回まったく違うことを求められるので、それに何とか対応していくのも楽しいです。テレビに自分が撮った映像が流れるのもうれしいですね!
–やっぱりドローンやってみたいなあ…! とても勉強になりました。今日はありがとうございました!
—
株式会社ライフシード
長野市南千歳町1-7-14 https://life-seed.co.jp/
✍️書いた人
安斎 高志(あんざい・たかし)
コピーライター、編集者、映像ディレクター。合同会社案在企画室CEO(ちょっとイイこというおじさん)。二児の父。もしもに関する想像力のたくましさは極めつけの折り紙つき、かつ保証つきの太鼓判つき。