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結婚式に出席するたび、かつて観た映画のワンシーンが脳裏をよぎり、そわそわする。そう、花嫁を連れ去るあの映画だ。
残された花婿だけじゃない。花嫁の親族だっていたたまれない。いや、そこにいるすべての人がいたたまれない。いつか恐らく私の娘も嫁に行く。そのとき、私は別の男が現れるという悪夢のような想像に押し潰されないだろうか。
結婚式の花嫁連れ去りを防ぐにはどうしたらいいだろう。もし連れ去られたらどうしたらいいだろう。妄想が止められない私は、たまらず結婚式場のドアを叩いた。
お話してくださったのは、長野市にある結婚式場「テラスグランツ」のチーフプランナー・寺田朱李(しゅり)さん。高校時代からこの場所でアルバイトを始め、20年以上のキャリアを持つベテランだ。
チャペル侵入は物理的に難しい
-実際これまで、そういうことはありましたか?
寺田さん:いやー、ないですね。同業者からも聞いたことはないです。
-よかった。でも、私、ネガティブな想像力がたくましすぎて、いないとは言いきれないと思うんですよね、花嫁を連れ去りに来る人。
寺田さん:考えたことはなかったですけど、確かに、いないとは言いきれないですね。
-備えはあるんですか?マニュアルとか。
寺田さん:さすがにマニュアルはないです(笑)。でも、恐らく連れ去るなら「披露宴」ではなくて「挙式」の方ですよね?
-確かに、式が終わった後の披露宴に現れるのは間が抜けてますよね。さっき永遠の愛を誓ったところなのに、っていう。
寺田さん:挙式中は物理的にもハードルが高いと思いますよ。当式場はチャペルの扉が二重になっていまして。
-一つ目を開けたところで止められますね。
寺田さん:そうですね。そもそも、明らかに結婚式にそぐわない服装の人が当式場の敷地内に入ってきたら、まずスタッフが100%声をかけますね。「ご出席者様でしょうか?」とか「ご記帳はお済みでしょうか?」とか。
-「いや、ちょっと…」とかごまかしながら、かいくぐろうとチャペルに近づいた時点で…。
寺田さん:密着マークですね。チャペル内とチャペルの外に1人ずつ、そしてその2人と無線で繋がっているディレクターの計3人が現場を管理していますから、チャペル内に入る前にどうにか止められると思います。
-侵入できたとして、二つ目の扉との間まででしょうね。
寺田さん:そこは自信ありますね。それで止められないとすれば、もう警察沙汰です。110番ですよね。
二言目は言わせない
-しかし。しかしですよ。もし礼服を着てきて、ちゃっかり列席してしまっていたら?
寺田さん:それであれば、さすがに名前ぐらいは呼ばれてしまいそうですね。
-牧師さんの「誓いますか?」にかぶせぎみで「花子!!」って叫ぶやつですね?
寺田さん:はい。ただ、二言目は言わせません。
-二言目というと、「おれが悪かった、考え直してくれ!」とか「おれが幸せにする!」とか?
寺田さん:ですね。その二言目に「お客様、式の最中ですのでお静かにお願いします」をかぶせます。
-かっこ悪いですね(笑)。
寺田さん:そもそも、式当日に現れる時点で相当かっこ悪いんですよ。結婚式って何ヶ月も前から準備しますから、止めるチャンスはいくらでもあるはずなんです。
-確かにそうですね。1年がかりで準備する人も結構いるって聞きます。
寺田さん:それをみすみす逃して、最悪のタイミングで現れるんですから相当かっこ悪いです(笑)。何度も言ってしまいますが、式の当日なんて本っ当に最悪のタイミングです。来ている人全員に迷惑がかかりますからね。
-ですよね。百歩譲っても式の前か後にしろよって思います。いくらでもチャンスはあるだろって。
花嫁がなびいても、逃がさない
-しかし。しかしですよ。花嫁がなびいてしまったらどうしますか?
寺田さん:とりあえず中止ですよね。でも、花嫁は逃がしません(笑)。まずは控室に連れていきます。
-やはり中止ですか。食事ももったいないですね…。
寺田さん:ですよね、でも、去ろうとした花嫁をだれもお祝いできませんからね。
-まあ、そうですよね…。
寺田さん:控室に連れて行ったら、まずは「これだけたくさんの人がお祝いに来てるんだから、まずは全員に謝りなさい」と伝えます。そして、これまでの人間関係をすべてゼロにしても生きていく覚悟があるのかと問いたいですね。
-プランナーさんだって、新郎新婦への愛着はありますよね?
寺田さん:何ヶ月もかけて、なれそめとか両親のこととか聞いて準備してますからねー…。毎回、2人の人生を振り返るムービーとか見ると泣きそうになっちゃうんですよ。
-それも裏切ってしまう行為ですよね。
寺田さん:思い入れが強いから、ショックだろうなあ…。
-では、花嫁を奪い去りに来ようと思っている男に一言お願いします。
寺田さん:本当にそれが彼女のためになるのか、じっくり考えてほしいですね。式当日に来たところで誰もハッピーにならない。花嫁がたとえ現れた男の人の手を取ったとして、その瞬間以外はだれもハッピーにならない。その後のことをちゃんと考えてほしいですね。
-式当日に現れても、物理的に難しく、メリットもないことがよくわかりました。世の中から花嫁連れ去り事件がなくなりますように。
寺田さん:最初に言いましたけど、現実には聞いたことないですよ(笑)。
テラスグランツ
https://www.terrace-glanz.com/
予約・申込電話 0120-044-125
✍️書いた人
安斎 高志(あんざい・たかし)
コピーライター、編集者、映像ディレクター。合同会社案在企画室CEO(ちょっとイイこというおじさん)。二児の父。もしもに関する想像力のたくましさは極めつけの折り紙つき、かつ保証つきの太鼓判つき。