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もしも鳥の名前を知りたくなったら 〜初めてのバードウォッチングに行ってみた

✍️ 安斎 高志

最近、庭に鳥がやってくるようになった。かわいらしい姿に心がなごむ。しかし、「鳥が」と書いてしまうところに知性のなさがにじみ出る。きちんと鳥の名前で呼びたい。目の前の鳥を「鳥」としてしか認識できない年寄りにはなりたくはない。

「やあ、ルリビタキのオスだね。見ていてごらん、すぐにメスがやってくるはずだよ」などと言ってみたいのだ。(つがいで暮らしているのか知りませんし、住宅街にいるのかも知りません。妄想です)

せめて普段、近場で目にする鳥の名前くらいは覚えたい。私は、日本野鳥の会長野支部の榊原美奈子さんにバードウォッチングに連れて行ってもらった。

向かったのは長野市の善光寺と隣接する城山公園。住宅街からさほど距離はなく、ちょっとした散歩で訪れる人も多い場所だ。

鳥を探すときは「点」で見ない。「面」で見る

–普段このあたりを歩いていても、スズメかハトくらいしかいない印象です。

榊原さん:私も意識していなかったころは、こんなにたくさんの種類の野鳥が身近にいるなんて気づかなかったです。でも、近くに神社だとか公園だとか、木が多い場所があると、住宅街でもいろんな野鳥が見られますよ。

–先ほど双眼鏡を貸してもらいました。やっぱり必需品ですか?

榊原さん愛用の「KOWA」の双眼鏡。色遣いや質感といった見た目に惹かれたという

榊原さん:野鳥の種類を把握するには必要ですね。でも、3,000円くらいのものでも十分楽しめます。バードウォッチングにハマっていったら少し高くても良いものを検討していけばいいと思います。

–ちなみに、この双眼鏡は8倍と聞きました。ピンとこないんですけど…。

榊原さん:距離が8分の1になると考えるとわかりやすいです。40m先のものが、5m先にいるように見えるのが8倍の双眼鏡。バードウォッチングには8〜10倍の双眼鏡が最適と言われていて、私が今、手に持っている双眼鏡は8倍。フィールドスコープ(望遠鏡)は30倍です。

–結構、差がありますね。近くに見えるほうがいいなあ…。

榊原さん:初めての人は倍率が高すぎないほうがいいんです。倍率が高いと重たくなるし視野が狭くなるので、かえって野鳥が見つけにくくなるんですよ。手ぶれもしますし、重さで肩もこります。

(フィールドスコープを覗かせてもらう)

–本当だ!倍率が高いフィールドスコープだと、どこを見ているのか把握するのに時間がかかりますね。

榊原さん:野鳥の会に入って教わったのが、「点で見るな、面で見ろ」でした。視野を広げて、何かが少し動いたところに視線を向けてみる、というのがコツのようです。そこに野鳥らしいものがいたら、野鳥から目を離さずに双眼鏡を目に持っていく。

望遠レンズつきのカメラがなくても野鳥は撮れる

榊原さん:では、実際に双眼鏡を持って歩いてみましょう。

–私、最近とみに記憶力が鈍っていて、写真で記録しないと覚えられそうにありません。双眼鏡ではなく、望遠レンズで写真を撮りながら行きますね。

榊原さん:すごいレンズですね。

レンタルサービスで1ヶ月2万円弱だったレンズ

–150-500mmなので、それなりに遠くまで撮れます。さすがに買うとなると10万円ちょっとするのでレンタルサービスで借りました。

榊原さん:実は先ほどの双眼鏡とスマホを組み合わせるだけで、簡易的な望遠のカメラになるんですよ。

双眼鏡の覗き口をスマホで接写するイメージ

–わ!ほんとだ!

榊原さん:視界は丸くなってしまうし、コツは要りますが、十分撮れますよね。

実際にスマホと8倍の双眼鏡で撮った写真

–レンズ要らなかったかも。これ、めちゃくちゃ重いんですよ(約2kg)。でも、せっかく借りたんで今日は望遠レンズで撮ります。

(ほんの少し善光寺の境内を歩く)

榊原さん:あ、ほらカワラヒワがそこにいますよ。

–え、どこですか?

榊原さん:あの3本の木の真ん中の奥にある…、あ、飛んでいきましたね。あ!そこヒヨドリ。手前の大きな木の右下を歩いて。

–え、どこですか?

榊原さん:すぐそこの木の手前です。あ、ツグミも来た。

–ちょっとついていけないです…。

榊原さん:ずっとレンズを覗いていると難しいかもしれませんね。まずは自分の目で鳥を見て、視野を広げて、面で見てください。

–なるほど、そうでした。

(5分ほどチャレンジを続ける)

–広く見る。そして、広めの画角でファインダーを覗いて鳥を見つけたら、徐々にズームする。これを守っていたら、なんとなくコツが掴めてきた気がします。どうですか、結構いい写真じゃないですか?!

榊原さん:上手ですよ!これはメジロですね。

–他にも色々と撮れました!

榊原さん:コツも掴んできましたね!

シジュウカラ。胸にネクタイをしているように見えるスズメ大の鳥
ヒヨドリはたくさん見かけた。しっぽが特徴的なので覚えやすい
3匹のメジロ(下の方にギリギリもう1匹写っている)。桜の花の蜜が好きとのこと
ちょっと遠いけどカワラヒワのつがい。こんなに黄色くてかわいい鳥が身近にいたとはまったく気づかなかった
こちらもヒヨドリ。枝が多い場所ではピントが合わせづらいがこれはたまたま顔を出したタイミングでピントが合った
黄色いくちばしが特徴的なイカル。振り向いた瞬間を激写

–そうだ。撮ってるだけじゃダメなんだった。ちゃんとコツや楽しみ方を取材しなければ…! こうやって鳥の名前を知っている人と一緒に歩けば教えてもらえるけど、実際に独力で覚えるときにおすすめの方法はありますか?

榊原さん:私はこの本「ぱっと見わけ 観察を楽しむ 野鳥図鑑」(ナツメ社)を持ち歩いています。行動や生態がわかりやすく載っていて楽しいんですよ。

–ぶ厚いですね。324種類も載ってる!

榊原さん:代表的なものだけ抜粋してあるんですけど、これ全部、国内で見られるんですよ。

–奥深い世界…!

榊原さん:あとはサントリーが運営しているサイト「日本の鳥百科」がおすすめです。大きさや見かけた場所、季節、色を入力すると、候補を出してくれるんです。

–これ、めちゃくちゃ便利ですね!ある程度、絞り込めれば特定するのも早そうだし、鳴き声も聞ける!

榊原さんの本日のメモ。3時間ほどで17種類の鳥に出会えたというが、筆者が認識できたのは9種類だった

探鳥はポケモンに似ている

–榊原さんはどうして探鳥にハマったんですか?

榊原さん:庭に野鳥が来ていて、たまたま家に図鑑があったので調べてみたらヒヨドリだってことがわかって。

–名前がわかると愛着が湧くから、生き物の名前を知ることが森を大切にする第一歩だって、C.W.ニコルさんも言ってました。

榊原さん:そうそう。で、花をついばんだり、巣をつくり始めたりといった暮らしぶりを見ていたらどんどん興味が湧いていったんですよね。それから近場を歩いていても、野鳥の存在が気になりだしたんです。

–おもしろさって、どんなところですか?

榊原さん:身近にいろんな野鳥がいることを知っていくのが楽しいですね。図鑑に載ってる野鳥を見つけたときもうれしいし。ポケモンに近いものがあるって言ってる人もいます。見つけた野鳥の種類がどんどん増えていくのを楽しむ感覚ですね。場所によっても、出会う野鳥は違いますし、さっきのぶ厚い図鑑を見ていただいてわかるとおり、なかなかコンプリートできるものではないですから、その奥深さもハマっていく理由の一つですよね。

–今日もすごく楽しかったです。ただ、まだまだ見つけるのにも時間がかかるし、撮るのに集中しすぎると覚えていられないし、鳴き声を聞く余裕もないし…。レベルアップするにはどうしたらいいですか?

榊原さん:やっぱり詳しい人と歩くのが一番です。私も最初は一人で楽しんでいたんですが、たまたま近くで野鳥の会の長野支部長(当時)が案内をしてくれる探鳥会があって、それをきっかけに野鳥の会に入ったんです。そしたら、ベテランの会員さんは見つけ方のレベルが全然違いました。たとえば、この野鳥はこういう場所にいることが多いとか、こういう動きをすることが多いとか、知ってるだけで圧倒的に見つけやすくなるんですよね。

森の中に入らずともいろんな鳥が見つけられる、というのが今日一番の気づき。写真のような舗装された道からもたくさんの鳥が確認できた

–それは今日、榊原さんと歩いていても感じました。ある程度の知識がないとあんなに早く見つけたり判別できたりしないですよね。

榊原さん:それと、野鳥の会の皆さんは、道具の選び方もていねいに教えてくれましたね。みんなやさしいから道具を試しに使わせてくれたりするんですけど、それは大きいです。何がいいか、何が自分に合ってるかは、やっぱり使ってみないとわからないことも多いですから。

–探鳥会って頻繁にあるんですか?

榊原さん:長野支部ではほぼ毎月やってますよ。8月はお休みですけど。

–どうして8月はないんですか?

榊原さん:やっぱり木が生い茂ると鳥は見えづらいんです。だから、まだ葉が生えそろわない今くらいが一番いい季節ですね。8月は鳥がほとんどさえずらなくなるし暑すぎるというのもありますけど。

–そうか。期せずして、いいタイミングで案内をお願いしたんですね。

榊原さん:ちなみに、時間帯としては日の出から3時間と日没前の3時間くらいの時間。ただ、意外と当てはまらないことも多いですね。天気は、晴れているに越したことはないです。

–当てはまらないことも多いってのがまた、つくづく奥深いです。ちょっとハマりそうな予感があります。今日はありがとうございました!

日本野鳥の会長野支部 https://sites.google.com/view/naganotori/

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✍️書いた人

安斎 高志(あんざい・たかし)

コピーライター、編集者、映像ディレクター。合同会社案在企画室CEO(ちょっとイイこというおじさん)。二児の父。もしもに関する想像力のたくましさは極めつけの折り紙つき、かつ保証つきの太鼓判つき。