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もしも目の前にいる人が心肺停止になったら

✍️ 安斎 高志

この「バンゼン?」ではおちゃらけた記事が多い筆者だが、今回は至極真面目に書ききろうと思う。テーマは目の前にいる人の呼吸が止まったら、である。

このテーマで書こうと思ったのは、2023年10月に起こったある出来事を耳にしたからだ。長野県長野市にある温泉施設・うるおい館のフロント前で、70代の男性が倒れた。男性は一時、心配停止の状態だったようだが、現場にいたスタッフの救助により一命を取り止めたという。スタッフの皆さんは長野市消防長から感謝状を贈られた。

はたして、自分の目の前で人が倒れ、呼吸が止まったら何ができるだろう。私は、このとき救助に当たった同館のスタッフ、小林登支配人と山口力さん、池松洋平さんの3人にお話を伺った。

初動の早さが命を救う

–そのときの状況を教えてください。

小林さん:フロントで、男性がカウンターにもたれかかったなあと思ったら、ほどなく倒れてしまって。

池松さん:入浴後に、バスに乗って帰るためにフロントの方に来たんですけど、どうもその時点で意識はなかったみたいですね。

山口さん:で、横にして気道を確保するために顎を上げたんですけど、呼吸が止まっちゃっているようだったので「AED持ってきて」って言おうと思ったら、別のスタッフがもう既にAEDを持ってすぐ後ろに立ってました。

–すごい初動の早さですね。

小林さん:呼吸が止まってから30秒くらいで山口がAEDを貼り付けて。

↑心臓マッサージは経験があったが、AEDで電気ショックを行ったのは初めてという山口さん(右)

山口さん:最初、心臓マッサージをしてみたんですけど、AEDから「心拍がないので、電気ショックのボタンを押してください」という指示があったので、周囲の人に離れてもらってすぐにボタンを押しました。

小林さん:で、ドン!っていう衝撃で、体が浮き上がって。あとは、呼吸が復活したようで「そのままにしてください」という指示がAEDから出たので、救急車を待ちました。

↑長野市消防長から贈られた感謝状 

–救急車はどのくらいで到着したんですか?

池松さん:通報から5分くらいですね。先日、この件で消防署から表彰を受けたんですけど、そのときに「僕たち(救急隊)も結局はAEDで応急処置して、搬送先の病院を探すことしかできない。それを先にやってくれていたので後遺症なども残らずに済みました。本当に稀なケースです」って感謝されました。

–そうですよね。1分1秒を争うって言いますもんね。でも、実際に動くには勇気が要りそう。

小林さん:息が止まってしまっていたので、このまま放っておいてもどんどんひどくなるのはわかっていましたからね。AEDで解析したらやっぱり心肺が停止してるし、電気ショックも躊躇はなかったですね。

AEDは事細かに指示を出してくれる

–ここまで聞いて知らないことばかりだったんですけど、AEDってそんなに色々と指示してくれるんですね。

山口さん:体のどこに電極パッドをつけるかは機械に書いてありますし、「今、心臓の計測をしているから待ってください」とか、「ショックが必要だからボタンを押してください」とか、全部、機械が教えてくれます。まあ、言ったら今回のことも機械のおかげです(笑)

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参考:心肺蘇生とAEDの使い方|セコム SECOMTV 

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–いやいや、そうは言っても誰にでもできることじゃないと思いますよ。救命訓練は定期的に受けてるんですか?

小林さん:うちの施設では、年に2回実施してます。

–そうなんですね。実際に心肺停止した人にAEDを使用した経験はあったんですか?

山口さん:2度ほど、パッドを貼り付けるところまでは経験していて。そのときはどちらも、心臓が動いていたので、電気ショックを行うまでには至らなかったんですけど。

↑多くの公共施設にはAEDが設置されているので、よく行く場所ではどこにあるのか確認しておこう

–結構、こうした温浴施設ではよくあることなんですか?

小林さん:ありますね。冬場は特に。

池松さん:飲酒してたりとか、食後すぐとか、長湯とか、リスクが増えることはしないほうがいいです。

小林さん:水分もちゃんと摂らないとですね。多いのは、低血糖と脱水症状です。あとはヒートショック。

–結構、危険ですね。心して入浴しないと。

小林さん:今回は、倒れた場所がフロントということが不幸中の幸いでしたね。風呂の中だと、転倒したときに頭を打ったりとか、体が濡れているとすぐにAEDを貼り付けられなかったりとかありますからね。

勇気を持って行動を

–今回のことで、意識が変わったりましたか?

小林さん:池松くんは、この部署に入って間もないので、だいぶ変わりましたね。

池松さん:つい3日前も中学生が脱衣所で倒れてしまったんですけど、すぐに動きましたね。危なさそうだったので、すぐ通報して病院に搬送してもらいました。

–躊躇していてよいことはなさそうですもんね。

池松さん:表彰を受けたり、こうして取材を受けるたびに、振り返っては、いろんなケースが起きたときのシミュレーションをするようになりました。

小林さん:あとは、今回、心から思ったのは、時間との勝負なんだなと。処置に時間がかかるとやっぱり後遺症が残っちゃうことが多いみたいなんで。

↑倒れた男性と池松さん(右)は知り合いで、同行者がいないことや年齢、住所なども知っていたため通報もスムーズだったという

池松さん:あの日から1ヶ月後くらいに、倒れた男性がここに来てくれたんですけど、元気そうでホッとしました。

–それは本当によかったです。

池松さん:その場はパニックになってるし、周りの人も巻き込んだりしないといけないのでハードルはそれなりに高いんですけど、勇気をもって行動することが大事だなと思いました。

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うるおい館 https://uruoikan.com/

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✍️書いた人

安斎 高志(あんざい・たかし)

コピーライター、編集者、映像ディレクター。合同会社案在企画室CEO(ちょっとイイこというおじさん)。二児の父。もしもに関する想像力のたくましさは極めつけの折り紙つき、かつ保証つきの太鼓判つき。