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知人の子どもが小学校に通うようになった。
SNS越しにその姿を眺めながら、いつかわが子もランドセルを背負って小学校に通う姿を妄想している。
しかし、妄想が進むにつれて一抹の不安がよぎった。それは、子どもが「勉強するのがイヤだ」と言い始めることだ。
「なぜ勉強するのか」「勉強を好きになってもらうにはどうしたらいいのか」……そうしたストレートな疑問に対する答えを、今の自分は持ち合わせていない。来るべき子どもの勉強ギライに備えて、元学校教員で、現在は教育現場における探究学習のコーディネーターを務める田嶋朝羽さんに話を聞いた。
勉強は、本来おもしろくてワクワクすること
——子どもが「勉強するのはイヤだ」って言うようになったら、どうしようと思っていて。
田嶋さん:
そもそも、どうして勉強するんだと思います?
——えっと……将来の進学のためとか?
田嶋さん:
たしかに行きたい学校に行けたら素敵かもしれませんね。でも、それだけじゃないんです。本来勉強自体がおもしろくてワクワクすることなんですよ。
——勉強がおもしろい?
田嶋さん:
はい。目の前の出来事や世の中の動きについて「なんでこうなっているんだろう?」と疑問を持って、理解していく。そのプロセスってとてもおもしろいと思いません?
——たしかに物事がわかっていくのは、おもしろいかもしれないですね。自分がレベルアップしていく感覚というか。
田嶋さん:
だから、勉強を教えるにしても「1+1」がどうして「2」になるんだろうって考えたり、田んぼの「田」という漢字がどうしてこういうかたちになっているんだろうって調べたり。子どもに「そもそも」や「どうして」と問いかけながら、物事の裏側にある本質を一緒に考えていくのが大切かなと思っています。
——物事を理解するおもしろさに気づけるように寄り添っていくんですね。
田嶋さん:
人は誰しも「わかりたい」っていう欲求があると思うんですよね。まして、ピュアで好奇心旺盛な子どもたちなら尚のことです。だから、見えなかったことが見えるようになったり、わからなかったことがわかるようになったりするサポートを大人たちはするべきだと思っています。
——でも、僕、計算ドリルとか漢字練習帳がすごくキライだったんです。子どももそういった勉強がキライって言ったら、親としてなんて答えたらいいのかなと思っていて……。
田嶋さん:
うーん、たしかに計算ドリルとか漢字練習帳みたいな反復学習を好きな子どもは少ないかもしれませんね。でも、「コツコツ継続すること」の大切さって大人になったらめちゃくちゃ実感しません?
——間違いないです。
田嶋さん:
そういう目の前の勉強の意味を伝えていくことも大切かなと思っています。たとえ、そのときは計算ドリルとか漢字練習帳がおもしろくないと感じられても、「その学習には意味がある」と伝え続ける。そうすれば、たとえば中学校に進学して部活を始めたときにコツコツ練習し続けることの価値に気づくかもしれない。そのときに「あのときお父さんがコツコツ継続することは大切だって言っていたな」ってわかってもらえたら嬉しくないですか?
——時間差でメッセージが届くこともあるのか!
子どもの「わからなさ」に付き合ってくれる大人がいること
——そもそも、田嶋さんは子ども時代、勉強は好きでした?
田嶋さん:
私は、とても勉強が好きでした。でも、それって「わからなさ」に付き合ってくれる大人がいたからだと思っているんです。
——「わからなさ」に付き合ってくれる大人たち?
田嶋さん:
たとえば、小学生3年生のときの担任の先生は、クラスでの散歩中に用水路に穴を見つけたら「これって何に使う穴だろう?」って、その場で話し合いを始めるんです。
——話し合いにライブ感がありますね。
田嶋さん:
「ゴミを流すんじゃないか」とか「どこか別のところに水を届けるんじゃないか」みたいに、みんなそれぞれに予想を立て始める。その時間がとっても楽しかったんですよね。おそらく先生も答えを知らなくて、一番楽しそうに考えていました(笑)。
——先生がワクワクしている!
田嶋さん:
最終的に用水路近くに住んでいるおじいちゃんに聞きに行って「これは洪水が起きたときに、下流に水を逃がす穴だよ」という答えを知りました。答えの意外性はもちろん、そこに辿り着くまでの過程がおもしろかったんですよね。
——そうしたプロセスがあると、記憶にも残りますよね。
田嶋さん:
このエピソードは学校の先生ですが、親の関わり方も大切だと思います。
——(ぎくり)
田嶋さん:
たとえば、私の父は理科の教師だったんですが、わからないことがあると言うと「じゃあどうなっているか調べてみよう」と言って、家で実験をすることもありました。
——めちゃくちゃいいお父さん……。
田嶋さん:
もちろんわざわざ実験するほど特別なことじゃなくても構いません。その日見た景色や経験した出来事について「どんなことを感じたか」とか「なんでそう思ったのか」といった対話を増やせばいいと思います。そうした日常の何気ないことにも目を向けるようになって、一緒に「わからなさ」に向き合うことを楽しめたらいいんじゃないですかね。
大人自身が探究している姿勢を見せる
——ひとつ気になっていることがあります。小学生のうちは、まだそうした身の回りの出来事と学びを紐付けられそうなんですが、高校生になって学習内容が高度になってきたら、どうしたらいいかと思って……。
田嶋さん:
たしかに受験も視野に入ってきますしね。「身の回りのことをわかるようになる」というよりは「成績を上げる」ことを重視する力学は働きやすくなってしまうように思います。
——そうしたら親側も学習内容についていけなくなってしまうじゃないですか。子どもに関わる大人として、どんな態度を取ればいいのかなと思うんです。
田嶋さん:
今、教育業界では、自ら問いを立てて自ら答えをつくっていくという探究的な学習のあり方がスタンダードになろうとしています。大人自身もそうした探究している姿勢を見せるのが大切かなと思いますね。
——探究している姿勢、ですか。
田嶋さん:
実は大人のみなさんも仕事の現場では普段から探究をしているんじゃないかなと思うんです。たとえば「このサービスでどうやったらお客様を幸せにできるんだろう」「この地域を盛り上げるために何ができるんだろう」といったように知らず知らずのうちに自ら問いを立てて仕事に取り組んでいる人も多いと思うんですよね。
——たしかに仕事も探究する行為なのかもしれないですね!
田嶋さん:
その通り。将来の進路を考えはじめる高校生だからこそ、そうやって探究している大人を知るのはとても価値があることだと思います。今、私が所属している一般社団法人でも「uulu」というプロジェクトを立ち上げて、企業や行政、大学や他校、NPOやフリーランサーなど、地元で活動する多様な人とともに地域社会で生まれる問いに高校生が向き合う機会をつくっているところです。
——素敵なプロジェクトですね!今日はありがとうございました!
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取材協力:一般社団法人KOKO
✍️書いた人
小林拓水(こばやし・たくみ)
「toishi」という屋号で活動しているコピーライターです。1990年生まれ。長野と東京を行ったり来たりしながら暮らしています。パンが大好き。