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サウナが好きだ。
サウナ室は90℃以上、水風呂は17℃が筆者の今の最適解。仕事で疲れた身体を癒やすため、夜の荒ぶる気分を落ち着けるため、いつもサウナを求め続けている。
でも、なかなか理想のサウナが近所にはない。もしも、自分のベストサウナが近くにあったら、あわよくば自分の家にあったら……そんなことを考えているうちに、おばあちゃんちの庭に自作サウナをつくった人を見つけた。その方の名は、阿部翔太さん。「ムンモサウナ」と名付けた自作サウナを楽しむ日々を聞いた。
IT企業勤務からサウナ番へ
ーー阿部さんは、もともとサウナがお好きなんですよね?
阿部さん:はい。週5、6のペースでサウナに入っています。
ーーほぼ毎日。
阿部さん:日常的にサウナに入るようになったのは、コロナ禍から。もともと都内のIT企業に勤めていたんですが、在宅勤務になってからオンとオフの切り替えが難しくなって。完全に仕事モードのスイッチを切って、フラットなメンタルをつくるために、当時契約していたジムのサウナに通うようになりました。
ーー強制的にパソコンやスマートフォンから離れられますもんね。
阿部さん:ある日、地元の小諸市でテントサウナのイベントがあったんです。そこで、初めて薪ストーブと外気浴のサウナを経験して「こんなに整うのか!」と衝撃を受けました。そして、たまたまイベントに地元の温泉旅館のオーナーがいて。話をしているうちに「新しくサウナをつくるから、スタッフを探している」と言っていたので、その場で「やりたいです!」と言って、2日後に務めていたIT企業を辞める決断をして、「Sauna Space TOJIBA〜湯治場〜」(以下、TOJIBA)に転職。サウナ番の仕事をはじめました。
ーーついにサウナが仕事になった!
おばあちゃんちの庭にあった小屋を見つけて
ーーでも、サウナの仕事に就いたにも関わらず、なぜ自分でサウナをつくろうと思ったんですか?
阿部さん:TOJIBAで働きはじめてから、いろいろなサウナに出向くようになって。そこで、サウナオーナーさんのこだわりを聞くうちに「自分のサウナをつくってみたい」という想いが湧き上がってきたんです。
ーーそこから、どのように「ムンモサウナ」をつくったんですか?
阿部さん:おばあちゃんが住んでいる家の敷地内に生い茂っていた木々を伐採していく中で、小屋が出てきて。しかも、状態も良くて、サイズもちょうどいい。「ここ、サウナにできるじゃん」ってアイデアが湧いてきたんです。
ーーおばあちゃんちの小屋がサウナに……!
阿部さん:でも、アイデアは浮かんだものの、いざとなると踏み出せなくて。サウナ用のテントをAmazonの「買い物かご」に入れたまま、購入ボタンを押すことなく時間が経っていました。
ーーめちゃくちゃ葛藤している。
阿部さん:でも、ある日Instagramを開いたら、よくある有名人の名言を切り抜いたリール動画の中で「子どもはまず何でもやってみる。大人は失敗したらどうしようと考えて躊躇してしまう。まずは子どものように何でもやってみたらいい」と言っていて。「この人、いいこと言うな」と感銘を受けたんです。その後、覚悟を決めて購入ボタンを押しました。
ーーInstagramの切り抜き動画が最後の一押しに。
阿部さん:「まずつくってみよう」という気持ちになってからは、動きが速かったですね。ECサイトで薪ストーブを買い、父が友人の味噌屋さんから譲ってもらった釜を水風呂用に導入しました。サウナストーンも、サウナをセルフビルドした知り合いに紹介してもらった佐久市の採石場で集めています。
ーー採石場にまで!
阿部さん:最初はカゴ1つ分だけ石を購入したんですが、後日さらに追加で150kg買うように。クルマに積み込むときには、腰がぶっ壊れるかと思いました。
ーー150kgの石を運ぶのは壮絶ですね。
阿部さん:いろいろな苦労はあったものの、かかった金額は総額10万円程度。「まずつくってみよう」というスタンスだったので、低コストではじめました。
試行錯誤がとにかく楽しい
ーー実際にサウナを自作してみて、いかがですか?
阿部さん:もともとサウナに入るだけで楽しかったのが、自分で試行錯誤しているうちにサウナへの解像度が上がっていくのが楽しくなってきて。
ーーと、いいますと?
阿部さん:たとえば、サウナストーンの量。当初、室内の温度がすぐに下がってしまっていたんです。その原因を調べたら、薪ストーブの火がすぐに燃え尽きてしまうことにあった。だから、蓄熱させるサウナストーンが多い方が温度をキープできるとわかって、石を追加したんです。
ーー採石場で150kgもの石をもらいに行ったのは、そういう理由だったんですね。
阿部さん:ほかにも、ストーブの燃え方が弱いなと思って、煙突を改造したこともありました。サウナ番をしている本業の知識を活かしながら、煙突の長さを2倍に伸ばして吸い上げの力を強くして燃焼しやすくしています。
ーー本業の知識も活かしていく。
阿部さん:あと、最近ハマっているのは香り。ロウリュ用のアロマ水をつくって、いろいろな香りを楽しんでいます。母が育てているハーブ、知り合いからもらったマコモ茶、酒蔵さんから譲ってもらったジンの製造に使われる廃棄予定のジュニパーベリー……いろいろな香りを試しているところです。
このサウナは、“遊び場”
ーー知恵と工夫でサウナをアップデートし続けているんですね。
阿部さん:それが楽しいんです。ここは、自分の“遊び場”だと思っていて。よく友達も連れてきて、一緒にサウナを楽しんでいます。
ーーたしかに自分の好きなことを追求できて、友達と楽しい時間も共有できる「ムンモサウナ」は、阿部さんの“遊び場”かもしれませんね。
阿部さん:サウナを通じて、同じ時間を共有して、仲良くなれたら最高。子どもの頃によく自分の家に友達を呼んで「ニンテンドー64」で遊んでいたんです。そのときの感覚と似ているかもしれません。
ーー懐かしき「ニンテンドー64」……。
阿部さん:当時、遊びに来てくれた友達に料理を振る舞ったりしていて。相手に楽しい時間を提供しようとするのがもともと好きだったんですよね。だから、「ムンモサウナ」では、「ととのうをギブする」をモットーに掲げています。
ーー「ととのうをギブする」。
阿部さん:あまりサウナに入ったことがなかった友達が「めっちゃととのった!」と言ってもらえるのが、本当に嬉しくて。おばあちゃんが「これ、食べるかい?」と出してくれたおやつを食べながら、まったりととのう時間が最高です。
ーー本当に友達の家に遊びに行く感覚だ。今日はありがとうございました!
取材協力:阿部翔太
ムンモサウナ Instagram
https://www.instagram.com/mummo_sauna/
✍️書いた人
小林拓水(こばやし・たくみ)
「toishi」という屋号で活動しているコピーライターです。1990年生まれ。長野と東京を行ったり来たりしながら暮らしています。パンが大好き。