Moshipedia
YouTuberという職業はすでに、小中学生がなりたい職業ランキング上位の常連になっている。しかし、なれるのか、稼げるのか、続けられるのかなど、子を持つ親としては気がかりなことばかりだ。目指した先に幸せは待っているのか。
そして、「どうしても、なる!」と、海賊王を目指す少年の勢いで言われたら、どう応援するべきなのか。
筆者は46歳、価値観は凝り固まりつつある。それでも柔軟な考え方をもって来るべき日に備えたい。私は情報教育に詳しい信州大学教育学部・佐藤和紀准教授の研究室を訪ねた。
まずは観察させよう。大切なのは「探究心」に気づけるか
–賛成すべきか、反対すべきか、まずはそこからなんですけど…。
佐藤さん:本音では反対ですか?
–そうですね…。実際、競争はかなり激しいと思うので…。諸説を総合すると、全YouTuberの上位3%くらいでようやく月収10〜20万円というラインが現実のようです。月収50〜100万円となると上位1%くらい。
佐藤さん:なるほど、「なるのが難しいんだから、やめておけ」と。でも小中学生あたりだと特に、競争率の話に納得する子は少ないと思います。
–そうなんですよね。なれると思ったから言いだすんでしょうし、夢を否定したくもないですし。
佐藤さん:親がレールを敷いて、やりたくないことをやらせるよりは、まずは「やりたい」という気持ちを認めることがスタートだと思うんです。
–敷いたレールの上を歩く子になってほしくもないのも正直なところです。
佐藤さん:で、私が最初に何か伝えるとしたら、YouTuberをきちんと観察してごらん、ということでしょうね。
–観察する?
佐藤さん:はい。よく観察して、YouTuberには「好き」を突き詰めている人が多い、ということに気づいてほしい。
–なるほど。確かに安定して再生回数を稼いでいるYouTuberって、そういう人が多い気がします。突飛なことやってみても、ネタなんてすぐ枯渇するし。
佐藤さん:そうなんです。ネタの源泉は探究心です。「好き」がないと、ネタはすぐ枯渇してしまう。一部のエンターテイナー以外は「稼ぎたい」というより、好きなことを紹介しているうちに、稼げるレベルまで到達しているのではないかと考えています。
–そんなYouTuberの顔が何人も浮かびます。
佐藤さん:それに気づいて、追究とか、探究とか、そういうことの大切さに意識が向かっていってくれるといいですよね。
–子どもにもポジティブな話ができそうです。
YouTuberは博士課程と同じで一点突破型
佐藤さん:YouTubeの世界って、学問の世界と似ているんですよ。
–というと?
佐藤さん:YouTuberは先ほどおっしゃられたように、稼ぎづらい。でも、だれも到達していないようなところまで突き詰めていくと、バズったり登録者数が増えたりします。一点突破型が多い。
–そうですね。
佐藤さん:一方、学問を突き詰めていった結果の「博士課程」も完全に「一点突破」型です。
–なんとなく想像はつきます。
佐藤さん:これは今後、博士課程に限らない話になると思います。私たち(40代)世代は、国語も算数も、すべての教科ができないといけないという「学力観」がありましたよね?
–そうですね。国立大学の理系学部に行こうと思えば5教科6科目できちんと点数を取らないといけなかった記憶です。
佐藤さん:今もそれはかわっていないんですが、でも、現代の時代観や多様性を考えると、これからは恐らく追究型の「一点突破」がどんどん重要性を増していきます。
–なるほど。「好き」を追究していくことの重要性も増していきそうですね。
佐藤さん:はい。これから先、YouTubeというプラットフォームもいつまであるかわかりませんし、映像制作の環境だってまったく変わってしまう可能性があります。
–今、大事なのは映像のスキルや見せ方じゃない、と。
佐藤さん:そうですね。そうした見せ方は、「好き」を見つけて掘っていったあとでいいんじゃないかな、という言い方をすると、おもしろい方向に転ぶ気がしますね。
大切なのは「懲りない、飽きない、続ける」こと
佐藤さん:もっと言うと、YouTuberの特性って、「やり続ける」だと思うんです。コツコツ更新し続けないと上位表示もされないですし。だから、懲りない、飽きない、続けるという気持ちがないと、職業レベルまで到達するのは無理です。
–確かに。それは、われわれ世代が子どものころにあった価値観に近いですね。
佐藤さん:そうですね。コンテンツもさることながら、コンピテンシー(高い成果を得るための行動のしかた)も必要なんだということに気づくといいですね。
–続けることの大事さも、コンピテンシーも、ビジネスやスポーツを含めていろんなことに共通しそうです。ポジティブで建設的なアドバイスができそう。
佐藤さん:加えて、小中学校の授業やテストも、YouTuberとして必要な素養に近い方向を向いてきているんです。
–え、そうなんですか?
佐藤さん:私たち世代の教育って、ひたすら先生や教科書の発信を受け取るという状態でしたよね。
–そうですね。それが変わり始めているんですか?
佐藤さん:はい。授業もテストも、いかに情報を取捨選択してアウトプットまで繋げるか、如何に多くアウトプットして自分の考えを構築していくかというようなことを重視するようになってきています。
–まさにYouTuberの特性…!
佐藤さん:そういう教育を受けている子どもたちの感覚と、一方通行の授業を受けていたわれわれ世代の感覚は、だいぶ違うということもわかっておいたほうがいいですね。
–確かに。大事なことがたくさん見えてきました! 佐藤先生、ありがとうございました!
●まとめ
・YouTuberを職業にできるのは、「好き」を探究する人、かつコツコツ続けられる人
・YouTuberは博士に似ている。共通するのは一点突破型の「探究心」で、これからその重要性は増していく
・小中学校の学校教育も、YouTuberのように情報を整理・編集してアウトプットすることを重視する方向に変わってきている
●結論
「好き」を突きつめること、コツコツ続けることの大切さを知ってもらえれば、YouTuberになれなくても成長できるので、反対する必要はない
—
信州大学教育学部 佐藤和紀研究室
https://www.satou-kazunori-lab.net/
✍️書いた人
安斎 高志(あんざい・たかし)
コピーライター、編集者、映像ディレクター。合同会社案在企画室CEO(ちょっとイイこというおじさん)。二児の父。もしもに関する想像力のたくましさは極めつけの折り紙つき、かつ保証つきの太鼓判つき。