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もしもハンターになりたかったら

✍️ 安斎 高志

自分の力だけで生きていける人間にあこがれがある。農耕や採集もしかりだが、やはり一番は狩猟だ。田畑を荒らす害獣を仕留めて、命をいただく。無駄もない。

しかし、何をどうしたらハンターになれるかわからない。そもそもサバイバル能力の低い自分には向いていない気がする。

私は、経営コンサルタントとリンゴ農家の二足の草鞋をはきながら、ハンターとしても活動する西村聡司さんに話を聞きに行った。西村さんは2018年から狩猟を始めた。現在44歳と、経営コンサルタントとしては脂が乗った年齢といえるが、狩猟の世界の40代は「まだまだ若手」とのこと。西村さんにハンターになった経緯と魅力について聞いた。

なお、狩猟には大きく分けて銃によるものと罠によるものがあり、西村さんは前者。銃を使用するほうのハンターだ。

情報収集はリアルの世界で動くこと

–どうして狩猟を始めたんですか?

西村さん:住んでいる場所がだいぶ山の中だから、日常的に獣と遭遇するんです。もともと冬山を歩きに行ったり、スキーなんかもしていたんですけど、少し物足りなくなってきて。もっと自然に近づいたり、自然そのものを楽しみたいと思うようになって、そんなとき、長野県がやっているハンター養成講座が受講生を募集していたんです。

–行政がそういう講座をやってるんですね…! 害獣もどんどん山から降りてくるし、一定数、ハンターは確保しないといけないですもんね。

西村さん:その講座が6回くらいありましたね。野生鳥獣の状況とか駆除の状況についての座学があって、そのあとはOJTと称して実際に猟をしている人についていく実地の体験があって、そこで実際に巻狩りに参加させてもらいました。

–巻狩り?

西村さん:獲物を追い立てる勢子(せこ)と、銃で狙うタツ(タツマなど、地方によって呼び方はさまざま)に分かれて行う狩りです。山の上からワーワー言いながら降りていく勢子にくっついて山を歩いていっただけなんですけど、それが楽しくて。

–どんなところが楽しかったんですか?

西村さん:普段、山歩きするときは整備された登山道を歩くわけですが、猟のときは当然ながら道もない山にザクザク入っていくんです。獣道(けものみち)に沿って歩いたり、獣の足跡や寝屋(寝床)を見ながら歩いたり。そんなことが単純に楽しかったですね。今まで知らなかった、足を踏み入れたことのなかった「自然」の中にいる、と強く感じたんです。それで、そのとき参加させてもらったグループにそのまま入れてもらいました。まだ鉄砲も持っていなかったから、勢子だけでもやらせてくださいと頼んで。

–グループって、地域ごとにある猟友会の支部とは別なんですか?

西村さん:色々なグループがありますよ。狙う獲物の種類が同じ人同士だったり、単純に気の合う人同士だったり。それぞれ住んでいる地域の猟友会で活動している人もいるし、地域の猟友会とは別に地域に縛られずにグループ猟をしている人もいるし、様々です。

–猟友会は意外とゆるやかなつながりなんですね。しかし、そういったグループに入ったりして誰かに教わらないと、なかなか始められるものじゃないですよね。

西村さん:そうですね。「ひとりでは始められない」ということでもないんですが、山や獣についてきちんと知識を持っていないと命にかかわりますからね。先輩に教えてもらうほうが安全ですし、近道だと思います。そうした仲間を見つけるには、銃砲店のご主人に相談してみるのもいいと思います。銃砲店のご主人に鹿や猪を獲りたいとか、鳥を撃ちたいとか、希望を伝えれば紹介してくれると思いますよ。

–確かに、猟銃を売ってるところなら情報がありそう。

西村さん:どこの街も、そんなにたくさん銃砲店があるわけじゃないから、周辺の狩猟に関する情報はかなり集まってくるはずです。そこからどこかのグループに入るのが一番近道だと思います。狩猟の世界の人たちはあまりインターネット上での情報発信をしていないので、情報収集は自分からリアルの世界で動かないといけないですね。

命をいただく限り、できるだけ無駄がないように

–銃を間近で見ると、なんだか美しいですね。無駄のない、機能美というか。

西村さん:私の銃はアメリカ製で「見た目よりも実用重視!」というのが特徴なので。私も武骨な機能美を気に入っています。でも、欧州のメーカーの銃には装飾に凝っているものもたくさんありますし、自分好みのものを探すのも楽しいですよ。

–ちなみに、おいくらくらいなんですか…?

西村さん:新品だと20万円くらいから100万円くらいするものまで様々ですが、今は中古が結構出回っているので、5万円くらいでも手に入りますよ。

–カメラが趣味の私にとっては「頑張ればどうにか」という費用感です。あ、でも弾にお金がかかるのか。

西村さん:そうですね。散弾銃用だと種類によるけど、私がよく使ってるのは250円くらいかな。

–そこそこお金はかかりそうですね。そう考えると、若いうちからハマれる人は少なさそう。ハンターって何歳くらいの人たちが多いんですか?

西村さん:結構高齢化は進んでいると思いますよ。私が入っているグループは40代が2人、50代が1人、60代が2人、70代が5人です。グループ外を含めても、20代のハンターはまだ会ったことないかも。お金の問題だけじゃないと思いますけどね。

–80代はいないんですね。高齢になると難しくなりますか?

西村さん:単純に体力が要りますからね。ただ、足腰が弱くなってきても、忍耐力と集中力があれば、獲物を待ち構える側のタツとしては十分活躍できるので、高齢になっても楽しめる趣味だと思いますよ。

–でも、獲物を持って帰るのだって体力要りますよね? あ、そもそも基本的には持って帰るんですよね?

西村さん:もちろんそうです。命をいただくわけですから「無駄なく、おいしくいただきます」という気持ちは常に持っています。なので、山奥で獲物を仕留めて、汗だくになりながら1時間、2時間かけて引っ張って降りてくるというようなこともざらにあります。どうしても引き出せないという場合も、その場で解体して、出来る限り持ち帰るようにしています。

–その場で解体することもあるんですね。

西村さん:できる限り無駄にはできないですからね。先日も、一人で山に入ったときに80kgくらいある猪を仕留めたんですけど、最初、一人で引っ張り出そうと頑張ったんですが、どうしても無理で。すごく心苦しかったんですが、「ごめんなさい、美味しくいただきます」と手を合わせて、解体して持てる分だけ持って山を下りました。

ハンターに向いているのは我慢強い人

–ハンターになるのに向き不向きってありますか? 試験とかもあるんですよね?

西村さん:大きくわけると、狩猟をする許可と銃砲所持の許可の二つがあります。ただ、どちらも筆記試験や実技試験はそれほど難しくはありません。どちらかというと、銃を所持するための「資質」や「態勢」をきちんと調べられている感じはしますね。

–資質や態勢?

西村さん:銃を持たせていい人物なのかどうかとか、ちゃんと保管できるのかとか、ですね。銃砲所持の許可を与えるのは都道府県の公安委員会なんですが、銃の所持許可申請時や更新時には、警察官が「申請者はどんな人物なのか」を近所に聞き込みに来たりします。保管場所についても、たとえば銃と弾は別の場所に置かなければいけないし、ロッカーが4ヵ所以上壁に固定されている必要があったりと結構細かく決まりごとがあります。

–確かに、殺傷能力があるものですもんね。警察が不適格と判断した場合は、そもそも「銃を持つこともできない」ということなんですね。では、銃を持つことが出来たとして、狩猟に向いている人はどんな人ですか?

西村さん:勢子って長い時は1時間とか2時間とか山を歩き回るんです。一方でその間、タツはじっとしていなければいけない。ゴソゴソ動いて音を立てると獲物が来なくなっちゃうから。それこそ氷点下10度で2時間待つなんてこともザラにあるわけで。

–アクティブに動き回るだけじゃないですね。

西村さん:だから、我慢強さは必要ですよね。獲物がとれないことも多いですし。せっかちな人は向かないです。あとは若手はやはり勢子を任されるので、足腰の強さは必要ですね。道のないところを長い距離歩きますから。

–どちらも自信なしです…。

西村さん:それから、方向感覚と自然を見る力、たとえば地形を覚えたり、目印になる木を覚えたり、足場をよく観察して岩場や急坂などの危険個所を見分けたりするような力が必要ですね。電波があればスマホで地図は見られるけど、地図だけだとわからないことも多々あるし。そもそも電波が届かないところも行きますからね。まあ、こういう力は先輩と一緒に山を歩いていればだんだんと身についてきますけど、中にはどうにも方向感覚がズレていてすぐに遭難しそうになる人もいますので、最低限の素養は必要かなと思います。

–銃を持つ前に生きるための基礎力が必要そうですね…。近くにハンターがいないので、新鮮な話ばかりでした。ありがとうございました!

西村さんが経営するリンゴ園のHP
にしむら林檎園 https://nishimura-ringoen.com/

同じくコンサルティング事務所のHP
ラーチ https://larch-consulting.com/

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✍️書いた人

安斎 高志(あんざい・たかし)

コピーライター、編集者、映像ディレクター。合同会社案在企画室CEO(ちょっとイイこというおじさん)。二児の父。もしもに関する想像力のたくましさは極めつけの折り紙つき、かつ保証つきの太鼓判つき。