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もしも蒸し暑さに負けそうになったら

✍️ 海野 紀恵

6月下旬になってようやく梅雨入り。
ジメジメして、ジリジリ暑くて、呼吸をしているだけで体力を消耗する季節になりましたね。
今年は梅雨入り前に真夏の気温になる日も多く、いつもより早く<夏の定番メニュー>を食べ始めた気がします。そこでふと思いました。「夏の定番メニューって、仏教っぽい!」と。<仏教っぽい!>の定義がうまく説明できないのですが、昔からお寺で食べられてきたものが私たちの食卓には多い気がするのです。そこで、夏の定番メニューと仏教のつながりを調べてみました。

暑い日でもさっぱりおいしい冷奴

まずは冷奴。薬味とおしょうゆでいただく定番のスタイルでも、添える食材の無限の組み合わせによるアレンジスタイルでも、どちらでも楽しめる夏の最強メニューです。今回は薬味とおしょうゆの定番バージョン。

豆腐は仏教ととても関係の深い食材です。豆腐が生まれたのは、今から約2000年前の中国といわれています。豆腐づくりの技術は、遣唐使が行き来するようになった奈良時代に仏教とともに日本へ伝わったようで、当時はお寺で食べられることが多く、一般に広まったのは江戸時代のことだそうです。タンパク質が豊富な豆腐は、当時の僧侶たちの貴重な栄養源でした。今でも京都の南禅寺の門前など、お寺の近くには豆腐の老舗が並んでいます。

ただ、この定番冷奴には、仏教で避けた方が良いとされるものがどさっと乗っています。そう、薬味のネギです。仏教には、<五辛(ごしん)>と呼ばれる、香りの強い野菜を避ける食文化があります。具体的にはニラ、ニンニク、ラッキョウ、ネギ、アサツキ(玉ねぎ)です。五辛を避ける理由は、強い香りには好き嫌いがあり、説法や読経をするときにその香りが充満すると集中できない。また、神聖な空間にふさわしい香りではないというものや、五辛は食欲を増進させるので、修行の妨げになるという理由もあります。定番冷奴は、お寺で重宝された豆腐と、避けられていたネギがコラボした一品でした。

ポリポリ塩分補給!たくあん

最近では熱中症対策のため、水分と塩分を摂りましょう!と呼びかけられていますよね。漬物王国・信州では、1年中食卓に漬物が登場しますが、その中でも私が大好きなのがたくあんです。

たくあん。その響きがなんか仏教っぽい、と思って調べました。たくあんの名前の由来は諸説ありますが、ひとつが、沢庵宗彭(たくあんそうほう)という僧侶が作ったというものです。沢庵宗彭さんは、安土桃山時代から江戸時代の臨済宗の僧侶。沢庵和尚がこの大根の漬物を考案したので、『たくあん』と呼ばれるようになったというのが名前の由来のひとつです。

余談ですが、私には緊張しながらたくあんを食べた思い出があります。僧侶になるための研修を終え、得度式(とくどしき)という儀式を経て、翌日の朝、本山で精進料理のお膳をいただきました。その時に「必ずたくあんを一切れ残しておきなさい」と習うのです。というのも、漆器を使っているため、お茶碗についたお米をきれいに食べ切ろうと箸でつつくと食器が傷んでしまいます。そこで、白湯を注ぎ、たくあんでお米を拭き取るようにして最後まできれいに食べなさい、と教えてもらったのです。いま思い返すと信じられないのですが、うっかり拭き取り用のたくあんを食べてしまわないように、ものすごく緊張しながら食事しました。

冷奴にたくあん、誰もが食べたことのある日本の味ですが、改めて調べてみるとその歴史はとても奥が深いですね。もしも暑さに負けそうになったら、昔ながらの日本の味で栄養をとって体を労わりましょう!

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✍️書いた人

海野 紀恵(うんの・きえ)

浄土真宗本願寺派僧侶・布教使・フリーアナウンサー。 仏教に限らず宗教全般に興味津々。 お酒・おしゃべり・京都が大好き。 SBCラジオ「Mixxxxxx +」(月・木・金)YBSラジオ「プチ鹿島のラジオ19××」出演中。